思いが身体を動かす
今朝の気温は5度だったそうです。寒い日が続いていますね。ここで「寒い」という言葉を発してしまうと、さらに寒く感じてしまいます。人間というの はすべて頭から命令が出ているので、「寒い」という言葉を発すれば、さらに寒いことを頭に言い聞かせているようなものです。力を抜いて“案外寒くないな” と思ってみましょう。以前ほど寒いと感じなくなってくるはずです。
新米動物看護師というものは3か月くらいまで元気いっぱい、調子がよい ものです。これが数カ月経ってくると、ワンちゃんに咬まれたり、ネコちゃんに引っ掻かれたりして“怖い”という感情が芽生えてくる。“咬まれるかもしれな い”と思いながら保定しようとすると、咬みつかれてしまいます。カルテにはそのペットの情報として飼い主さんに分からないよう、B、D、咬、などと書き込 んであります。BはBite(咬む)、Dはdanger(危ない)、咬(咬む)ですね。新米看護師はカルテを見て、この情報を事前に認識してしまうとだい たい咬まれます。最初は何も分からずに気軽に保定をするから、ワンちゃんもあれっと思う間に保定されて抵抗する間もありません。これが慣れてきてカルテの 情報を読み取るようになってくると怖いと思うようになり、ワンちゃんのほうでも警戒を始めます。思いの力がマイナスに発揮され、ちょっとした表情や指先の 力に出てしまうのです。
「うちの犬は注射が嫌いなんです」という飼い主さんがいました。「注射っていう言葉を覚えてしまっているから、注 射という言葉を使わないでください」とおっしゃる。確かに獣医師が「注射しますよ」と言い、看護師が保定をすると暴れ始めるんです。けれどもワンちゃんは 注射という普段使わない言葉を覚えるはずがない。恐らく飼い主さんの緊張感や看護師が保定を強めたことなどを敏感に感じとって“怖い”と思っているので す。こちらが「今朝のお散歩はいつ行きましたか」などと言いながら、飼い主さんが考えている間にさりげなく注射をうつと、案外あっさり済むものです。もし 獣医師が「今から注射するからしっかり保定しててね!」などと言うと保定にも力が入り、てきめん、ワンちゃんは大暴れします。飼い主さん、ペットだけでな く、新米動物看護師に気付かれないのも心遣いの一つです。これがベテラン看護師になってくると、どんな情報を与えてもたいていのことでは動揺しません。
私は人から「先生、カゼですか?」と言われても「カゼじゃないですよ」と答えます。嘘でもいいから、絶好調ですよ、と言ってみて下さい。自分の言葉、思い に身体が反応するはずです。この教室に今、すごく怒っている人が入ってくるとしましょう。室内の雰囲気はとても重くなります。オーラというか、発するもの があって周囲にも気持ちが伝わりますよね。雰囲気を和ませる人、というのも実際存在します。言った言葉に対して、飼い主さんやワンちゃんたちも反応をする のですから、看護師も自分の気持ちや言葉をコントロールする必要があります。「疲れた」ではなく「ほっとした」。日頃からプラスの言葉を使うよう心がけま しょう。