命をつなぐということ
私はここ数年来、病院内で里親探しのボランティア活動をしています。これまでどのくらいのご縁をつないできたでしょうか。たいていは捨てられていた犬や猫 の持ち込ですが、その中には、生後間もなく捨てられたもしくは親と離れなければならなかった命もあります。まだ目も見えない・・生まれて数時間ではないか と思われるような状態でお預かりしたことも少なくはありません。そんな時は、うちの動物看護師が育児にあたります。哺乳から排泄のお世話まで、母犬猫がす るように、心身ともに片時も離れずお世話しています。
そんな風にして数週間かけて育てた仔犬猫が可愛くないはずありません。「私がこのまま飼います!」という動物看護師も出てきます。気持ちはわかります。 24時間片時も離れず、2時間おきの哺乳で育てた、言わば「我が子」です。おまけにかわいい。「私が育てたい!」という気持ちになるのは当然と言えば当然 でしょう。ところがです。動物看護師はプロ。かわいい犬や猫を自ら「飼育する側」ではなく、かわいければかわいいほど「託す側」にならなければなりませ ん。
動物看護師として、または他動物の専門職に就いたならば、動物とのかかわりはその後ずっと続くのです。そうなれば、必然的にこうした「出会い」は数限りな く出てきます。その幾多の出会いの中で、こうした育児の機会もまた数多与えられることになります。その度に「我が子」のような感覚が芽生えるでしょうし、 「一生共に暮らしたい」と思うことでしょう。ですがその感情は、一般飼主さんのものであって、プロのものではありません。プロである私たちには、プロにし か果たせない「特別な出会い」というものが必ず訪れます。それは、決して誰が見ても「かわいい」犬や猫たちではないかも知れません。例えば、顔は不細工か も知れない。性格も頑固だったり乱暴だったりするでしょう。身体にも何かしらのハンディを抱えているかも知れません。そんな動物たちとの出会いこそが、プ ロであるあなた方に訪れる「運命の出会い」なのです。
あなた方は今一生懸命知識や技術を身につけ、やがては動物業界へプロ目指して巣立っていくでしょう。いったん職を得れば、さまざまな経験が、毎日重ねてい く多くの時間が、あなた方を次第に「プロ」へと導いてくれるはずです。そんな仕事としてこの道に入った瞬間から、あなた方に求められるのは、プロとしての 感性です。大好きな、そしてかわいい動物たちを見て・慈しむ側ではなく、守り・導く立場になったからには、「命を守る・飼主さんを導く」という重大な責任 も発生します。その責任を認識し、プロの視点で動物たちを見る。それがプロとして求められる感性です。
犬や猫たちの寿命は、10~15年です。今のあなた方の年令からすれば、一生涯で飼育可能な頭数は寿命から換算すれば最高でも5頭くらいでしょう。平均し て一人に1~2頭の出会いがあるとすれば、一般の方々にはとうてい飼育が難しい命との出会いの方を選択して頂きたいのです。五体満足で性格もいい・・どな たにも可愛がって頂けるような動物たちは、どんな方と出会っても幸せな生涯を送れます。ところがさまざまなハンディが原因で、他の人にはとうてい託せない 命に選択肢はありません。そんな「特別な出会い」は必ず訪れます。その時まで、あなた方の「隣の席」は空けておいて頂きたいのです。それまでは、行き場の ない動物たちと飼主さんとの多くのご縁をつないで下さい。「命の橋渡し役」として。