先入観という魔物

とある大学で、大変興味深い実験が行われました。対象はその大学に通う100人の学生たちです。この学生たちをA班50名、B班50名の2つの班に分け、 同じ内容・時間の講義を受講してもらいました。ただし講師の先生のプロフィールだけをあらかじめ情報操作したのです。つまり、A班には「講師の先生は非常 に高名な素晴らしい先生なのでよく聴くように」と、B班には「あまり評判が良くない先生だが、まじめに聴くように」と伝えたのです。そしてそれぞれの講義 終了後、各班の学生にアンケート調査を実施。実に興味深い結果が判明したのです。

A班の実に95%以上の学生が、「非常に感銘を受けた」と回答しました。対してB班の学生はと言いますと、65%以上の学生から「まあまあ良かった」とい う反応が返ってきたのです。全く同じ内容で、同じ講師の先生の講義だったにもかかわらずです。とてもおもしろい結果だと思いませんか?この結果の原因は、 「先入観」です。あらかじめ伝えられた情報操作の内容によって、明らかに色眼鏡がその伝達結果を変えたのです。

実はこの時、もう一つ「情報の伝達力」についての実験が行われました。A班に伝えた「いい情報」は、50名の内30%の学生にしか伝わっていませんでし た。ところがB班に伝えた「悪い情報」の方はほぼ全員に伝わり、それどころか最後には「たいそうスキャンダラスな先生らしい」という怪情報にまで発展して いました。悪い噂と言うのは、加速度的に波及していくものなのですね。情報の良し悪しで、伝達力はかくも違ってくるものかと改めて実感できました。

この実験に限らず、動物業界にもうわさはつきものです。動物病院にしろペットショップにしろ、飼主さんにとっては最高の社交場です。それは「いい情報を得 て、少しでもいい環境でペットを管理したい」という飼主さんの心理の表れなのですが、実際はありとあらゆる情報が好き勝手に飛び交っているというのが現状 です。その情報に振り回された結果どうなるのか。色眼鏡という先入観が、よくも悪くも今後の情報収集環境を大きく左右することになってしまうのです。

では「本当のこと」を知るためにはどうしたらいいのでしょうか。それは、自分の目で視て、自分の耳でちゃんと聴く。これしか方法はありません。間違っては いけないのが、では「こうした情報がウソなのか」と言えばそうではありません。「情報の適合には個人差がある」と言うことです。
例えばしつけ。しつけのインストラクターから教えて頂いたおすわりのさせ方が、全ての犬種に適合するのかと言えばノーです。ゴールデンにはこのやり方が 合っても、柴犬には合わないこともある。情報の下に隠れている個体差による変化を勘案してこそ、その情報は生かされるのです。

情報によるマインドコントロールは、飼主にとっても、ペットにとってもマイナスでしかありません。とは言うものの実験結果にもあるように、私たち人間は情 報操作されやすい動物なのです。対して、いかなる情報にも惑わされない達人がいるのです。そう、ペットたちです。彼らはどんな表面上の情報にも惑うことな く本質のみを受け取ります。いかに取り繕ったとしても、何もかもお見通し。自分の感性で瞬時に情報を判別する達人なのです。
私たち動物のプロは、ペットたちのようなクリーンな目で状況や人を正確に判断することがとても大切です。せっかくキャッチした「情報」というチャンスを、 先入観という魔物にとらわれて見失うことがないようにしなければなりません。それがプロとしての大きな責任であると私は思います。