人と動物の真の絆

人とペットと関係は日々親密さを増し、ペットの擬人化はますます進行しています。番犬だった犬たちは座敷で暮らし、寝食を共にし、まるで私たちと変わらない生活を送っています。

そんな飼主さんたちからよく受ける質問に、「ペットに洋服を着せてもいいんですか?」と言うのがあります。これはここ数十年来のテーマとして賛否両論いろ いろなご意見がありますが、皆さんは肯定派ですか?それとも否定派?このどちらにも「なるほどなぁ」とうなずける理由がちゃんと存在しているから回答に困 ります。
例えば肯定派は、「暑さ・寒さをしのぐため」であり、対して否定派は、「毛に覆われているから必要ない」というのが大勢のご意見です。なるほどどちらにも正当な言い分があり、どちらもペットを思う気持ちから出たことに違いはありません。

結果から言いましょうか。「どちらでも構わない」と言うのが私の答えです。いや、「どちらでもあまり関係ない」というのが正しいかな。いずれにしても、獣医学的な見地から言えば「害ではありません」が正答でしょうか。
人間には汗腺があり、汗をかくことで体温を調整しますので、着衣は非常に重要です。ところが動物には、部分的にしか汗腺はなく、体温調整をそれに頼ってい るわけではありません。ですから洋服で暑さ・寒さをしのげることはなく、むしろきちんとした着脱管理をしなければ、毛玉になったりフケがたまったりと衛生 面の問題さえでてくるわけです。「じゃ、着せない方がいいんじゃないの?」そう思われるでしょうが、実は思わぬ効果があるのも事実なのです。

ペットによく似合った洋服が見つかれば、当然飼主さんは「この子に着せてみたい」と思うでしょう。着せたところがとてもよく似合う。飼主さんは嬉しくてた まりません。そんな喜ぶ飼主さんを見て、ペットもうれしいと感じているのです。それがこの「洋服を着せること」の唯一最上の効果です。
トップノットを結うこともそうですね。トリミングをした後、リボンでも付ければ飼主さんの喜びは倍増し、そんな飼主さんを見てペットも嬉しい。こんな相乗効果があれば、ケースバイケースではありますが、「なんでもあり」だと思います。

ただしこれには、「獣医学的に大きなズレがなければ」という最低限の尺度はあります。洋服だけでなく、最近は香水にネイル、ピアスまで登場しています。も う珍しくありませんが、カラーリングもそうですね。要は、人(飼主さん)とペットの絆に役立てればOKで、そもそもこれが狙いだったはずです。
業界の考え方に「HAB(ヒューマン・アニマル・ボンド)」というものがあります。「人と動物の絆」という意味ですが、全てのことがこのための橋渡しにな ればいいなと思います。そしてその精神を伝え、人と動物の最適な毎日をクリエイトし、導いてあげることが私たちの仕事です。求められていることは、動物に とって幸か不幸か・・。獣医学的に問題がなければ、飼主さんの愛を採用してあげたい。私はそう思っています。