命を護る感性

動物病院には、毎日いろんな動物たちがやってきます。もちろん健康管理のための来院もあるのですが、そのほとんどが病気やけがの治療が目的です。状態はさまざまで、生死にかかわるような重篤な状態で運び込まれてくる場合も少なくありません。      
 そんな命の危機に瀕したペットの中には、残念ながら手遅れだった場合も相当数あります。動物は急変するからです。朝の「ちょっとおかしい」が夕方には取 り返しのつかない状況になることは珍しいことではありません。ほんの少しの油断が、動物の生死の分かれ目なのだとしたら、飼主さんに必要なのはどんなこと なのでしょうか?

 「油断」が引き起こす事故に、「猫ふんじゃった」があります。歌のタイトルではなく、冬場に多発する事故の一つです。小さなハムスターや仔犬・猫など、 こたつやカーペットの中で寝ていることに気づかなくて、思いきり踏みつけてしまうのです。大抵は重症で、そのまま死に至ることもあります。お気の毒としか 言いようのない事故です。
 この事故の「犯人」は、かなりの確率で男性です。恋人やお父さんですね。なぜでしょうか?それはペットと過ごす時間が限られているがゆえに、当人の中で ペットの存在感が薄いのが原因です。お母さんは違います。自宅でペットと共に過ごす時間が長いため、常に自身の中に「ペットの存在」が備わっています。だ から例え同じ状況で踏んでしまったとしても、さっと足を挙げるなどして、完全に踏みつけるまでには至らない場合がほとんどです。「足の先まで」神経を張り 巡らせ、ペットに関心を持って生活しているからこそ、想定外の出来事にもとっさに判断ができるのでしょう。

 これは感性の差によるものです。常にペットを身近な存在として考えているからこそ、こうした状況の先読みが可能になるのです。
例えば皆さんは毎日、飼育動物のお世話をしていますね。猫をゲージから出す時、周囲の状況確認をしていますか?ゲージから出した瞬間、そこに犬がいたら猫 は驚いて逃げていきます。犬から見てもそうです。犬舎から散歩に出された瞬間、目の前に猫がいたとしたら、その習性から飛びかかるのは当たり前のこと。 「急に飛びついたから」ではなく、緊急事態が発生しないような環境を私たちが作ってやらなければならないのです。

 こうした周囲への配慮は、常日頃から動物(相手)をよく観察しておかないと身に付かない感性です。特に動物はそうですね。動物特有の習性だけでなく、個体ごとの性質までをしっかりと把握しておかなければ、いざという時にその身を、命を守ってやることなどできないのです。
 映画・「ロッキー」の主人公は亀を飼っています。一日の出来事を亀に話しかけているワンシーンがありますが、これはロッキーが亀の存在を認めている証拠です。
 動物と共に生きるということは、その存在を常に意識しておかねばならないということです。これが動物に関わる全ての人に身につけてほしい感性です。動物だけでなく人や物・・その総ての存在に配慮する毎日だけが、命を護る感性を磨き高める唯一の方法です。