里親制度の現実は

皆さんは「崖っぷち犬」のことを覚えていますか?マスコミ各社による加熱した取材が世間をにぎわしましたので、記憶にあるかと思います。
舞台は徳島県。崖っぷちで数日間、立ち往生している野良犬をマスコミが報道し、最後は消防レスキュー隊が救助して一件落着しました。その後、愛護センター で保護されて、獣医師により検診も行なわれました。健康確認後、里親募集も開始されましたが、全国から問合せが殺到したのです。マスコミの報道は相変わら ず続いていましたので、「ぜひうちの犬にしたい」という連絡は増える一方でした。
 ところが実際に里親応募をしてこられたのは50名ほど。うち、里親抽選会当日にやってきたのはわずか10家族ほどでした。そして抽選の結果、ある女性に決定し、喜びの中、その日のうちに引き取られていきました。

 実はこの野良犬には兄弟がいて、救助された犬と一緒に崖の上で生活していたのです。それを知った愛護センターは、その兄弟犬たちの里親も同時募集したの ですが、こちらへの応募は全くなかった。そうです。テレビで報道された「崖っぷち犬」というブランドが、人々の興味をそそっただけで、「ただの野良犬」に は全く魅力がなかったのです。人間心理とはいえ、実に複雑な心境です。

 さらにこの引き取られた犬にも後日談がありました。鳴り物入りで引き取ってはみたものの、犬の飼育に関しては全くのビギナーであった里親さん。なかなか なつかないこの犬に手を焼いていたのです。そして人を見たら吠える毎日で、近所から苦情も出始め、非常に困惑していたようです。また、2回ほど脱走して保 護されたこともあり、愛護センターからしつけなどのサポートも受けていたようです。
 ところがとうとう、里親さんの体調不良を理由に、犬は再び愛護センターに戻されてしまったのです。通常であれば殺処分されるはずでしたが、あまりに有名 になりすぎた犬です。動物愛護の啓蒙活動に一役かってもらおうと、愛護センター犬として飼育されることが決まったそうです。

 この結末を皆さんどう感じますか?殺処分されずに啓蒙犬になったから一件落着だったのでしょうか?一連の流れの中に、実は大きな問題があったように思い ます。その一つは里親の抽選です。応募者が殺到してそうせざるを得なかった事情はわかります。それにしてもその子にとったら一生を左右する大問題です。も し他の家族に引き取られていたら、もっと違う犬生だったかも知れないと思うと、どうしても今回の里親決定方法に合点がいきません。事情はどうあれ、一度引 き取った命をまた戻す・・動物はモノではありません。私たち同様、感情も併せ持つ命なのです。

 里親募集というのは実に難しいものですが、実際に動物がほしい人たちはたくさんいると思います。要は、どうマッチングさせてあげられるのか。アフター フォローのシステム含め、ベストパートナーと巡り会えるベストな制度の構築を、常に考えていられる私たちでありたいと思います。