五感を澄ませて
最新の設備や技術は、最善の治療をするためには必要であると思います。内視鏡は2~3年スパンで新機種に変わるし、エコーなどは1年ごとに解像度がよく なります。やはりいい機械は診断を大きく助けますので、最新の設備を整えることで、獣医療のクオリティは自ずと高まるのです。
ただし、いくら設備を整えようとも、それを生かしきるセンスがなければ宝の持ち腐れになります。機械や道具は、そのものが持つ能力(力)を生かしてこそ。それには医療技術もさることながら、判断能力や観察力などのセンスも必要なのです。
皆さんは、ご両親に健康な身体を頂きました。そして誰一人もらさず、「五感」という感覚器も授けて頂いているのです。当たり前のように考えがちですが、 これは大変にすばらしいことなのです。言わずと知れた五感とは、『視覚・聴覚・嗅覚・味覚・触覚』のこと。物事の不調や異変、不自然さは、この五感をフル 活用することでたいていはわかります。例えば、犬のお腹に触れて(触診)、「何かある」ことを感じたとしましょうか。それが何であるかを確かめるために、 聴診器(触覚)で探ると異常音が聞き取れた。ここで初めて「エコー」が登場するのです。最新機器であったとしても、その前段階には必ず、私たちの感覚が あってこそ。機械はそれを裏づけするためのものなんです。
第五感が感覚能力であるのに対し、私たちにはもう一つ、直感や予感といった予知能力=第六感(シックスセンス)も備わっています。例えば飼い主さんが、 「先生、うちの子が変なんです!」と、動物病院に飛び込んでくることが間々あります。聴診器をあてても、検査値にもさして異常は見当たらない。でも飼い主 さんは納得しません。そう、「何かがいつもと違う」と感じているからです。これは24時間、愛情を持ってそばにいるからこそ感じること。プロである私たち にも到底及ばない感覚・・すなわち第六感の成せるワザです。
こうした能力は、誰にでも備わってはいますが、優劣は当然あります。標準装備であったとしても、能力は使わなければ劣化していきますし、磨かなければ高 まりません。特に感覚能力や予知能力はそれ自体見えるわけでもないし、ましてや知能指数のように数字ではかれるものでもありません。常に研ぎ澄ますための 訓練が必要です。当たり前のものに数多く触れ「おかしい」に気づく観察眼を養い、正常なものと聞き分ける聴力を鍛え、異常に触れた瞬間、まるでセンサーの ように察知する指先の感覚を身につけること。飼い主さんの第六感をあなどることなく、五感で見極めていくことで、この能力は鍛えることができるのです。
こうした毎日のレッスンが「仕事の心身」を創り上げてくれます。そう考えたら、自分の身体がもっともっといとおしく感じるはずです。酷使していると感じたなら、今日からいたわる心を持ってほしい。そうすることが、ひいては動物の命を守ることにつながっていくのですから。