絶対‘神話

皆さんのほとんどが、一度は動物病院に行った経験があるでしょう。私は毎日、たくさんの外来患者を診察しますが、一番気になるのは飼い主さんのこんなセ リフです。「先生、うちの子、絶対薬を飲まないんですよ」。どんなに小さくしても、大好きなおやつに混ぜても判別して吐き出してしまうから飲ませられない と言うのです。同様に爪きりの場合もそう。シャンプーもドライヤーも大丈夫なのに、爪だけは絶対触らせないと訴える飼い主さん。ところがこの「絶対」は往 々にして飼い主さんの思い込みだったりするのです。

 ところがプロは、「絶対に」飲ませないといけないし、切らないといけない。報酬を頂いて「仕事」として受けたからには、絶対に成さないとプロじゃないん です。訓練には、『おいで・つけ・座れ・ふせ・待て』という5つの基本原則があります。おいでといったら来なきゃいけないし、待てと指示したらマテをさせ ないといけない。これがプロの仕事・・「絶対服従」です。

 動物病院はどうか。これは患者さんを治さないといけない。「生かして退院」が一番の望みであり仕事です。それには最善の治療行為プラス「絶対に治すぞ」 という強い意志が必要です。食べないなら流動食にしてでも食べさせる。飲まない薬も絶対に飲ませること。例えば腎不全の患者さん。点滴は不可避なのです が、度重なる点滴治療の末、血管が潰れてしまって留置針が入らない。でも入らないじゃだめ。不可避である治療行為ならば、「何が何でも留置針をいれないと いけない」のです。こうした「元気にして飼い主さんのところに戻すぞ」という気迫が伴ってこそ、プロの仕事なのです。

 皆さんは、学院で2年間学び、動物業界に巣立っていきます。動物の専門教育機関を卒業すれば、動物看護師やトリマーとしての認定証が発行され、プロとし ての入口に立つことになります。飼い主さんからみれば、新人もベテランも分け隔てなく「プロ」です。一つ一つの言動を大切にして、飼い主さんに最良の獣医 看護が提供できる知識や技術、心意気を養ってほしいと思います。

 教育施設での2年間はあっという間です。プロ意識の構築は、プロとして歩みだしてから深めていくのはもちろんですが、高めていく作業は今しかできませ ん。毎日毎日が勉強であり、学院生活の一瞬一瞬がその作業の足がかりとなります。社会は大変厳しい世界です。その中で「ただ毎日仕事をする」プロではな く、目的を持って活躍するスペシャリストになってほしいと思います。

 絶対神話をかたくなに信じた患者さんが、今日もペットを抱えてやってこられます。飼い主さんはできなくて当たり前。プロであるあなた方はできて当たり前。この差が職業人としてのあるべき姿なのです。