マニュアルの中の落とし穴
初めてペットを飼った時、たいていの場合、動物病院に健康診断を受けにきます。
ペットショップなどで飼育法を習って、一週間なり初めての飼育をしてみた結果、残念ながらたいていのペットは非常にやせています。
しかしながらたいていの飼い主さんは、「うちの仔良く食べるんですよ」と自慢げにおっしゃる。ですから、「どうしてこんなにやせてしまうまで気づかな かったんですか?」と問いかける私たちの言葉に、一様に愕然とします。そして、「言われた通りにごはんをあげていたし、本当に良く食べるんですよ!いった いどこが悪かったんですか?」と、不満な気持ちをあらわにします。
確かにそうだと思います。飼い主さんは教えられたセオリー通りにきちんと育てていたはずです。ですが、指示をきちんと守っていたからこそやせてしまったのです。非常にわかりにくいお話かも知れませんが、ここが一番大きな落とし穴です。
ペットショップや動物病院では、初めての飼い主さんには、必ず飼育法を伝授します。「ペットの子育てマニュアル」とでも言いましょうか・・例えば、フー ドが一日何回とか、一回の分量がどのくらいかなどを細かく指導します。飼い主さんはなにせ初めてのことですから、真剣に聞いていますし、メモまでお取にな る方もいます。そのくらい必死で聞いて行かれるのですから、毎日の飼育管理は、当然マニュアル通りにきちんとなさっていらっしゃることは容易に想像できま す。
しかし実際は、マニュアル通りにはいきません。なぜなら対象が「生き物」だからです。同じ子犬でも、大きさも違えば体質も違う。「その子だけのマニュア ル」が必要なのです。生後6ヶ月までは、頭の大きさと胃の大きさは比例していると覚えておいてほしいのですが、体重や頭囲も、月齢の平均はあっても個体差 はあるのです。食餌の回数も量も、その子を観察しながら増減していく配慮が必要なのです。プロからの指示を忠実に守っているがあまり、激やせに気づかない し、飢餓状態であるがゆえの食欲であるとは想像もしないのです。ね?大きな落とし穴でしょう?
私たちは何にでも平均値を求め、標準値に近づける努力をします。授乳期の子犬の哺乳は2時間おきが基本で、生後6ヶ月までは1日6回くらい離乳フードが 必要です。6~12ヶ月でやっと1日に3回になり、成犬ともなれば1日2回が平均でしょう。プロである私たちが飼い主さんを指導する場合、これが標準の飼 育マニュアルです。しかしながら、これはあくまでも平均値。目の前にいるペットにそのままあてはめるわけにはいきません。毎日そばにいる飼い主さんがその 子を観察し、変化に合わせて対応することで、初めて「その子の基準値」ができていくのです。
初めての飼育・・大変でしょう?ペットは与えられただけしか食べることができません。セオリーを経てオリジナルの基準値に変えていくには観察眼が必要 で、そのためには、プロの初期指導は重要です。こうした落とし穴を予見し、「1週間後の様子伺い」を心がけ、危険を事前に回避できる指導者になりましょ う。