動物たちのQ・O・L
動物病院と人間の病院の違いは何だと思いますか?薬も同じ、器具機材も全く同じ。治療内容も何ら変わりはありません。決定的な違いは何か。実は患者さん が動物であることだけなのです。あとは、患者である動物との間に飼い主さんが介在すること。言葉を持たない動物に健康状態を聞くこともできなければ、治療 法を説明することもできません。どれだけ手を尽くそうと思っても、飼い主さんの理解を得られなければ治療は叶わないのです。だからこそ、きちんとコミュニ ケーションを図り、治療法を説明し、理解して頂き、治療に参加して頂くことが何より大切なのです。
例えばよくあるのが、交通事故で車にペットの脚を踏まれてしまったという事故。当然のことながら、脚先は潰れてしまっています。たいていは切断という事態 になりますが、ここが問題なのです。動物の場合は、例え足先だけであったとしても、肩から切断することになります。四足歩行であるがゆえに、足先のみを切 断することで、傷口をうまくケアしないと感染など新たな問題が出てくるからです。でも飼い主さんの感情は違う。「かわいそうだから足先だけを切断して下さ い」と懇願するのです。気持ちはわかりますが、この「かわいそう」が大きな問題をはらんでいるのです。
「Q・O・L(クオリティー・オブ・ライフ)」・・生活の質を高めようというもので、最近は動物業界にも浸透しつつあります。「かわいそう」は一見、やさしい気持ちに思われますが、切断肢を残すことでペットのQ・O・Lは断然低くなるのです。
「目がつぶれてしまう」といった事例もそうです。医学的に見たら、完全に失明しているので「不必要な目」なのですが、飼い主さんの心情は「少しでも残して ほしい」となる。傷ついて失明した眼球を残すことで、二次的な危険が増すのです。これも同じ。ペットのその後の生活を考えたら、「かわいそう」を乗り越え ないといけない時もあるのです。
これが人医療と獣医療の大きな差です。注射や外科手術を虐待と感じる人もいれば、そうでない人もいる。それぞれがそれぞれの見解を持ってペットを守ってい るのです。それをきちんと「仕切る」のが私たちの仕事。物言わぬ動物たちの代弁者となって、飼い主さんに理解を求め、最善の治療に協力して頂く。この関係 が築けてこそ、動物たちの「Q・O・L(最適な毎日)」は守られていくのです。
飼い主さんとペットの数だけ「どうしたらいいのか」は存在し、「Q・O・L(最適な毎日)」はそれぞれの生活様式や価値観で大きく違ってきます。では導き 手の私たちはいったいどうすればいいのか。簡単です。「この子にとってどうすることが一番幸せなのか」を考えてあげたらいい。看護師の立場で、トリマーと して、または訓練士として、それぞれの立場で考え、指導できる人材に成長していって下さい。そうすることが動物たちの明日を守り、成長し続ける動物業界へ の真の貢献になると私は思います。